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さようならバックハウスのベーゼンドルファー 安井耕一&内藤晃 演奏会報告

更新日:2022年2月18日

2022年2月5日。かねもティーカルチャールでのコンサートは丸2年ぶりの開催だ。 新型コロナウイルス感染対策として、参加者全員の抗原検査を行っての【安心安全】での開催に皆様のご協力あって無事終演できたことをあらためて感謝申し上げます。



久々にキリッとした寒風が吹く中、ホールに入ると、連弾のリハ中。 お二人の信頼感を感じさせる 温かい音色が会場を包み込んでいた。



演奏会の始まりは、お二人のトークから。 過去にドイツでの活躍を経験されている安井さんは、古き良き時代に作られたピアノたちにも親しんでこられたそう。 内藤「このピアノからは、今のピアノにない芳醇な音の成分が出る」 安井「耳がほぐれる体験をしていただきたい」 今回の演奏会への期待がより膨らんだ。 演奏は、内藤さん、安井さんの独奏数曲ずつと、師弟でのブラームスのドイツ・レクイエムの連弾で構成。

〈内藤晃さん独奏〉

・マルチェロ(バッハ編曲):オーボエ協奏曲よりアダージョ 久々に聴いたバックハウスのベーゼン。以前の印象にも増して、内藤さんの奏でるこの曲からは音の奥行きと深さを感じ、その響きの上で奏でられるトレモロのスッキリとした美しさが引き立っていた。

・フランク:プレリュード、フーガと変奏 先の曲とはガラリと雰囲気の異なる響きで奏でられたフランク。 低音の深い響きに包まれる中で、慰めを感じさせるようなメロディーが奏でられていて、先の曲のハッキリとした音作りとの対比が見事。 流れるようなアルペジオがなめらかに溶け合って川の流れのようになり、その上に漂うセンチメンタルな旋律を際立たせていた。 最後は音を長く残し、最後の一音まで余韻を楽しんでいた。

〈安井耕一さん独奏〉

♪ベートーヴェン:ロンド 1音目からスッキリとした音色。 もしかしたらバックハウスの時代に好まれていたのではないかな、と感じさせるような、濁りのない正統派なサウンド。 低・中・高と音域ごとに音色の異なるベーセンの特色を、敢えて均一性のある音色にコントロールされていたように感じた。そして、それがベートーヴェンらしさを心地よく演出していたように思う。

♪シューマン:アラベスク 先の曲とは対照的に、音と音が絡み合い、増幅していく。絡み合う音の中に、輪郭のハッキリとした音が奏でられた時のコントラストがとても美しかった。こちらはベーセンの特色を活かした曲に仕上がっていた。また、終わりの和音が非常に美しかったことも記しておきたい。

♪ブラームス:間奏曲 母のような優しさや温かさを感じる冒頭部から、人のが内面に持つあらゆるモノを表したかのような場面への展開があるこの曲。 安井さんの演奏は、そこには常に愛情が寄り添っていることを感じさせてくれた。

♪ショパン:子守唄 この曲では、ベーセンの高音の特徴が月の光もしくは神の加護のように活かされており、それらに見守られながら我が子を抱き柔らかな笑みを浮かべる母の姿が目に浮かび、とても幸せな気分になった。 ブラームス、ショパンと慈愛に満ちた演奏を聴き、聴衆が穏やかな気持ちになったことが空気から伝わってきた。

♪ショパン:スケルツォ第2番 先ほどまでの曲とは打って変わり、ほぼ間なく目の覚めるようなサウンドへと切り替わる。 鍵盤の上をいきいきと弾む指が小気味よく、自然な躍動感を生む。そこから左腕をふわっと開くと、心地よい音を空間へ解き放たれた。 曲が終盤に向かうにつれて、このピアノとの時間を惜しむかのように熱がこもった演奏となっていった。

安井さん独奏はプログラム上はここまでだったが、熱い拍手の続く中、1と指を立てて再びピアノの前に座り、奏でられたのはトロイメライ。 1音目から温かく優しい音が響き、涙が溢れてきた。息の詰まりそうな日常に何かゆるしを与えられたような気持ちになった。



今回の演奏会の最後飾るのは、 安井さんと内藤さんの連弾。 ♪ブラームス:ドイツ・レクイエムより  〜1.悲しむ人びとは幸いである 師弟の温かい時間に、内藤さんは時折とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら演奏していた。 安井さんがプリモ(第一奏者、高音側)だったが、深みのある音色を奏で、高音にも包容力があり、内藤さんがのびのびと伴奏を弾いているように感じる場面もあった。これが師匠というものかと感銘を受けた。


久々の開催となった、かねもでのバックハウスのベーセンによるコンサート。 今回のプログラムは、このピアノの持つ七色の音色を存分に味わうことができ、また、お二人によってより深い魅力を知ることが出来た。 遠州地方には珍しく風花が強く舞う中、様々な愛に満ちた響きを堪能でき、心温まるコンサートだった。 まだまだ制約の多い中ではあるけれど、 音楽は、音はどこまでも自由でいい。 私たちの心も、音楽の翼に乗って広く大きく、自由に飛びまわろう。                              (文:M) 

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