演奏家からのお便り 5

最終更新: 3月29日

今日は、浜松在住のピアニスト田村明子さんの登場です。





間接照明の柔らかい光の中で浮かび上がる大きな四本の柱と、それを見守るように仄暗い光の帯の中、鈍い輝きを放つ人間国宝 大角幸枝氏の銀器たち。

一瞬、中世ヨーロッパにタイムスリップしたかと思ったほど重厚で静謐なその空間がかつてはお茶が眠る蔵であったと聞いて、いつしかリハーサルで伺ったことを忘れ、思いつくまま次から次へと作品を弾き並べていた、というのが私のかねもホールとの最初の出会いでした。


音楽と共に毎回、それぞれに志を持つ作家の方々の織物や絵画などを一緒にお愉しみ頂くというヨーロッパのサロンを想わせるかねもコンサート。

これまで頂いたリサイタルを含む3度の演奏会にも其々に思い出があり忘れることができませんが、中でも2016年にカルテットリベルタの皆さんとご一緒させて頂いた折の感覚は、今でも鮮やかに脳裏に蘇ります。

前半モーツァルトのピアノトリオでは、Bösendorfer Model225 1998年製の高雅で薫り高い音色を愉しみ、後半には往年のバックハウスが所有されたというBösendorfer Model290 1898年製に交代、ピアノに合わせてカルテットのピッチも少し下げていただき、より重心の低い落ち着いたハーモニーが生まれました。

シューマンがこのピアノ五重奏曲を書き上げた往時の躍動した光景が今まさに目の前で繰り広げられているように思え、無我夢中で音を追ったことを思い出しています。


音楽会は、人と音楽と時空が互いに共鳴し合い、長い歳月をかけて織りなす綾となっていくもの。Bösendorferを愛し音楽を愛する皆さまのあたたかい眼差しのもとで、かねもコンサートがどのように熟成されていくのか、これからがまた楽しみです。

この秋は、4年ぶりのリサイタルDer Weg...vol.3 として10月2日(浜松、音楽工房ホール) 11月19日(東京、YAMAHAホール)を予定しています。

コロナ禍で見つめ続けたことをベートーヴェンとシューマンのピアノソナタを通して皆さまにお伝えできましたら本望です。


田村明子

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