さようならバックハウスのベーゼンドルファー 村上将規演奏会 終了報告

4月16日。「さようならバックハウスのベーゼンドルファー」と銘打ったコンサートシリーズも、いよいよ今回が最終回。

気まぐれなお天気に振り回された日だったにもかかわらず、今回も多くの方が足を運んでくださり、このピアノがどれほど愛されているかを改めて感じた。

本日のピアニストは、村上将規さん。 異色の経歴を持つ、二刀流奏者だという。 初めて聴く演奏。とても楽しみだ。



♪ブラームス:3つのインテルメッツォ

静かに降る雨の午後を表すかのような、しっとりとした音色から始まった1曲目。 湿度すら感じさせる音色は、雨の日の憂鬱さも時には楽しもう。人生には必要な休息さ、とまるで語りかけてくるようだった。 透き通る雨粒の美しさを思い出させる場面もあり、雨粒の描く絵画も楽しみたくなった。

窓を伝う雨を楽しむのが1曲目だとしたら、2曲目は強い風が時折吹き、木々を大きく揺らすような激しさを感じさせる演奏だった。そして長く残した余韻が、その風が収まる様を表現していた。


3曲目。暗く重い雨雲のような和音にも、ブラームスは言葉を持たせたようだ。 〜すべての事象には意味がある〜 空を覆っていた厚い雲が少しずつ散らばり、合間からわずかに光が見えはじめるものの、スッキリ晴れるわけではない。人生にもどこか似ているとすら感じた。 村上さんのしっとりとした演奏は、ブラームスの曲の持つ魅力を多角的に、大いに楽しませてくれた。



ブラームスに続いては、ゴドフスキーの作品。聞き馴染みのない作曲家なので、演奏前に村上さんが軽妙なトークを交えて解説してくださった。一部を要約して紹介。


〜彼の作品が、描写に優れているにもかかわらずあまり弾かれないのは、楽譜が難しすぎるからという私見。対位法を多用しており、左右の手が別々の曲を弾いている感じ。そのため聴き手からは、楽しい/耳が疲れると評価が分かれる。~


★ゴドフスキー:トリアコンタメロン「古きウィーン」 村上さんが奏でる上質さを纏った音色が、古き良き時代のゆったりとした時の流れや余裕のようなものを感じさせ、とても心地良かった。


★ゴドフスキー:ジャワ組曲より 「ボイテンゾルグの植物園」 先の曲はタイトルのように都会の雰囲気を感じさせたのに対し、この曲は出だしから湿度を帯びた空気と群生する植物を思い起こさせる。まさにジャワ島の植物園そのもの。 それを楽譜にして書き残した作曲家の素晴らしさもさることながら、1つ1つの音色で細やかに表現しピアノを通して情景を伝えてくれる村上さんの凄さを感じた。


★同組曲より「クラトンにて」 「宮殿とその周りの街の雰囲気や、そこに生きる人々を描いた作品。色々なメロディーやフレーズが出てくるので、お気に入りを探してみて」という村上さんの解説の通り、様々なフレーズが同時にいくつも流れている。身分も思想も異なる人々が街に息づいている様を表し、随所に人間臭さを感じた。 力強さと繊細な弱音の対比はとても聴きごたえがあり、また、空気や時の流れを感じさせるスラーやアルペジオの美しさに魅了された。

ゴドフスキーの曲は描写に優れており、まるでフィルム写真を見ているかのようだった。もっともっと彼の作品に触れたくなった。


♪リスト 巡礼の年第2年「イタリア」より 第7曲「ダンテを読んで〜ソナタ風幻想曲」 物語の始まりを告げるような印象的なイントロ。曲全体を通して、舞台上の芝居を見ているかのようだ。 うごめくような地獄の表現に用いられた強音は、ホールのサイズとピアノのサイズから考えるともっと耳に突き刺さるような刺激の強い音になってもおかしくないのだが、今回は突き刺さるような刺激ではなく、圧力や深さとして耳に届いた。それはこのピアノの凄さであり、村上さんのピアノに対する理解と高い技術あってのことだろう。 天国を彷彿とさせる場面は、とてもふくよかな音色で奏でられた。その中で時折姿を見せる不安な展開は、地獄・煉獄・天国がそれぞれかけ離れたものではなく、常に隣り合っているものだと教えられたように感じた。 そしてやがて、光の粒が降り注ぐ。それを表した高音のトレモロが非常に美しかった。

大きな拍手の中、アンコールはデザートとして楽しんで欲しいという村上さんの計らいで、クラシックではない曲をセレクト。 選曲には、お別れするこのピアノと、演奏会に足を運んでくれたお客様への感謝を込められたそうだ。


♪ゲーム『キングダムハーツ』より 「親愛なる人へ」 村上さんの奏でる弱音の美しさが存分に発揮された曲。左手が織りなすアルペジオが、曲の美しさをさらに引き出していた。


♪久石譲「フレンズ」 久石譲らしい、心地よい風を感じる曲。しなやかさを持った音色が極上の時を演出してくれる。偶然にも、ピアノの背後に飾られた落合くれこさんの作品の雰囲気が曲によく合い、視覚・聴覚共に楽しむことができた。 さらにもう一曲弾いてくださり、デザートまで大満足のプログラムだった。


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同時開催された絵画展もご紹介。

『with〜落合くれこ 暮らしを彩る絵画展』

日々の暮らしに彩りを与えることと、四季折々のふるさとの美しさを描くをコンセプトに、作品づくりに励むママさん画家。 生活空間の一部として馴染む小さめのサイズの作品たちは、小さいからこそその向こうに広がる景色を想像する楽しみもある。

次回、急きょ決定した5/5の演奏会でも作品を展示していただけることとなったので、ぜひ彼女の描くをじっくりと味わっていただきたい。

ちなみにピアノ奥に飾られた作品は、今回の演奏会のためにと描いてくださった最新作です。                            

                                   (文・M) 





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